福岡高等裁判所那覇支部 平成元年(行コ)3号 判決 1990年5月29日
控訴人(附帯被控訴人)
真玉橋産業合名会社
右代表者代表社員
金城政弘
右訴訟代理人弁護士
当山尚幸
被控訴人(附帯控訴人)
石川市長平川崇
右訴訟代理人弁護士
安繁
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 本件附帯控訴に基づき、原判決を取り消す。
三 本件訴えを却下する。
四 訴訟費用は第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
事実
第一 申立て
一 控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)
(控訴につき)
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)が昭和六一年九月二九日石川市字赤崎四三番五の市道を廃止した処分を取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(附帯控訴につき)
1 本件附帯控訴を棄却する。
2 附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
(控訴につき)
1 主文第一項と同旨
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
(附帯控訴につき)
主文第二ないし第四項と同旨
第二 主張
次のとおり付加、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。
1 原判決二丁裏九行目の「公示した。」を「適法に公示した。」と、同九行目ないし一〇行目の「生じるとともに関係者は処分を知ったことを擬制され、」を「生じ控訴人も右公示の日に本件処分がなされたことを知ったものというべく、」とそれぞれ改める。
2 原判決四丁表九行目の次に、行を改めて、次のとおり付加する。
「(一) 本件処分は、物に対して法律上の効果を生ずることを目的とする行政行為であるから、形式的には対物的処分であり、したがって誰に対して本件処分を通知すべきかは特定できない場合ともいいえよう。しかしながら、対物的処分も、結局はその物に関係のある者の権利義務を規制することになるから、両者の区別は明確を欠く場合が多い。とりわけ、本件市道は、ほとんど控訴人及びその関係者のみが使用し、本件処分は、控訴人の権利を規制するのと何ら変りはなく、実質的には対人的処分といいうるものである。
(二) また、被控訴人は、「市有地の処分について」と題する昭和六一年九月四日付通知書で、本件処分に先立って控訴人に対する協力依頼をしてきた。これに対し、控訴人は、本件市道の廃道は控訴人に甚大なる損害を及ぼす恐れがあり、廃道には反対である旨被控訴人へ通知し、石川市議会でも控訴人に不都合がないかどうかを討議している。控訴人としては、本件処分があれば直ちに被控訴人から通知がなされるものと期待していた。このような経過であるから、被控訴人が本件処分をしたのなら直ちに控訴人に知らせるのが、適正かつ妥当な手続である。しかるに、被控訴人は、本件処分後三か月の期間が経過する直前たる昭和六一年一二月一五日到達の郵便で控訴人に対し、本件市道の廃道処分の通知をしてきた。右の事情に鑑みると、本件処分が単純かつ形式的に対物的か対人的かで判断すべきではなく、実質的にみて、適正な行政処分としては控訴人へ通知すべきものであり、通知のあった日から行訴法一四条一項の出訴期間を計算すべきである。
(三) 行政処分が誰に対するものなのかは相対的なものであり、単に対物的とか対人的とかいう概念で割り切れるものではない。本件においては、実質的にみて控訴人が処分の相手方であり、本件道路を通行しているのは、ほとんど控訴人及びその関係の車両であることは、被控訴人の職員による二号線実態調査でも明らかであって、被控訴人としてもその実態に添った処置をすべきである。
即ち、仮に石川市公告式規則で、「告示は、市役所内の掲示場に掲示して公示する。」ことになっていたとしても、本件処分の公示を単に形式的に掲示板に掲示して済ませるのは適正な手続ではない。実質的に不利益を受ける者は控訴人及びその関係者であり、それを被控訴人も十分知悉していたのであるから、控訴人らが容易に知りうる公示方法(例えば通知書の送付ないし本件市道に公示の趣旨を記載した掲示板を設置する等)をとるべきである。それをなさない公示方法は憲法三一条の適正手続の保障に反し、かつ、実質的に憲法三二条の裁判を受ける権利をも侵害するもので違法である。
このように公示方法の観点からみても、行訴法一四条の出訴期間は、控訴人が被控訴人から本件処分の通知を受けた昭和六一年一二月一五日から計算すべきである。
(四) 行訴法一四条一項は「取消訴訟は、処分又は裁決があったことを知った日から三箇月以内に提起しなければならない」と規定している。法文は、法律をまず形式的に解釈するのが原則であり、特に公法にあっては国が国民の権利を一方的に拘束するので、なおさらである。形式的に解釈しては法の趣旨にそぐわない場合に初めて別の理論的、実質的解釈をすべきである。そうだとすれば、本件においては、行訴法一四条を形式的に解釈しても何ら不都合はないのであるから、出訴期間は、昭和六一年一二月一五日から計算すべきことになる。」
3 原判決四丁表一〇行目の「原告」の前に「(五)」を挿入する。
第三 証拠<省略>
理由
被控訴人の本案前の主張(出訴期間)について
一被控訴人が昭和六一年九月二九日、本件処分をしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被控訴人は、昭和六一年九月二六日石川市議会の議決を得て、同月二九日本件処分を石川市役所内の掲示板に、「道路法(昭和二七年法律第一八〇号)一〇条一項の規定に基づき、本件市道の路線を廃止する。その関係図面は、石川市役所において一般の縦覧に供する。」との処分内容を掲示して公示したことが認められる。
ところで、道路法(以下「法」という。)は、法一〇条三項において「前二項の規定により路線を廃止し、又は変更しようとする場合の手続は路線の認定の手続に準じて行わなければならない。」と規定し、路線の認定の公示については、市町村長は、路線を認定した場合においては、路線名、起点終点その他必要な事項を建設省令で定めるところにより、公示しなければならない旨定め(同法九条)、さらに、道路の供用の廃止については、道路管理者は、道路の供用を開始し、又は廃止しようとする場合においては、建設省令で定めるところによりその旨を公示し、且つ、これを表示した図面を市町村の事務所において一般の縦覧に供しなければならない(同法一八条二項)旨規定している。
ところで、路線の廃止がなされると、道路としての供用関係も消滅するので、路線の廃止処分には供用廃止処分が包含されており、改めて供用廃止の手続をとる必要はない。そして、同法一八条の道路の供用の廃止とは、当該道路を一般交通の用に供する必要がなくなった場合に、当該道路を一般交通の用に供することをやめる意思的行為であり、公物である道路を消滅せしめる行政処分である。道路の供用廃止の意思表示は、それが一般公衆に対してなされる性質上、公示によって行われるものであり、その効力発生の時期は、右公示のなされた時と解される。このようにして、本件処分は、本件市道を対象として行われたいわゆる対物的行政処分であり、特定の個人又は団体を名あて人として行うものではないから、適法に公示されることによってその効力は発生するものである。したがって、控訴人は本件処分が適法に公示された昭和六一年九月二九日に本件処分がなされたことを知ったものとみなされ、行訴法一四条一項の出訴期間の起算日は、右公示のなされた日の翌日と解すべきである。
控訴人は、本件処分は実質的には控訴人の権利を規制するのと何ら変りはないから、いわゆる対人的行政処分であって、控訴人が本件処分の相手方であり、また、行訴法一四条一項の法形式からみても、控訴人に本件処分の通知があった昭和六一年一二月一五日から出訴期間を計算すべきである旨主張する。
しかしながら、本件処分は、前示のとおりいわゆる対物的行政処分であり、道路の供用の廃止の意思表示は一般公衆に対してなされるものであって、特定の控訴人のみを相手方として行われるものではないから、控訴人の右主張は採用することができない。
また、控訴人は、本件処分に至る経緯及び被控訴人から控訴人に対し本件処分を知らせる通知書が送付されたのは、出訴期間が経過する直前であったことなどの諸事情を考慮すれば、右通知のあった日から出訴期間を計算すべきであると主張する。しかし、控訴人主張のような事情が存在したとしても、本件処分が対物的行政処分であることの法律的性質には何ら影響を及ぼすものではないから、控訴人の右主張は採用することができない。
さらに、控訴人は、本件処分の公示を形式的に掲示板に掲示して済ませる公示方法は、憲法三一条の適正手続の保障に反し、かつ、実質的に憲法三二条にも違反する旨主張する。
しかしながら、憲法三一条の規定が、仮に、本件処分のような行政手続にも適用があると解しても、前記認定の公示は、昭和六一年九月二六日石川市議会の議決を得て、同月二九日、路線の廃止又は変更を規定している道路法一〇条、路線の認定等の公示を規定している同法施行規則一条及び石川市公告式規則二条に従って適法になされたものと認められ、かつ、道路の路線の廃止ないしは供用廃止の処分は、前記のとおり特定の者を名あて人とする処分ではないから、これを一般に知らしめる方法として、右のような公示をもってすることも事の性質上やむを得ないところであり、右公示方法をもって憲法三一条に違反するものということはできないし、また、本件処分を公示した時期をもってその効力発生の時と解することが憲法三二条の裁判を受ける権利を奪うものとも解されないから、控訴人の右違憲を前提とする主張は採用することができない。
二以上のとおり、本件処分が適法に公示された昭和六一年九月二九日の翌日から起算して三か月以内に取消訴訟を提起すべきところ、本件訴えが昭和六二年三月七日に提起されたことは本件記録上明らかであるから、控訴人の本件訴えは行訴法一四条一項に規定する出訴期間を徒過していることは明白である。
したがって、控訴人の本件訴えは不適法というべきである。
三以上の次第で、控訴人の本件訴えが適法であるとの前提の下に控訴人の本訴請求を棄却した原審の判断は、行訴法一四条一項の解釈適用を誤ったものであって、本件控訴は理由がなく、本件附帯控訴は理由があるので、原判決を取り消したうえ、本件訴えを却下すべきである。
よって、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民事訴訟法九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官西川賢二 裁判官宮城京一 裁判官喜如嘉貢)